本:武田百合子「富士日記」

武田百合子「富士日記」
夫武田泰淳と過ごした富士山麓での十三年間の一瞬一瞬の生を、澄明な眼と無垢の心で克明にとらえ天衣無縫の文体でうつし出す、思索的文学者と天性の芸術者とのめずらしい組み合せのユニークな日記。
昭和52年度田村俊子賞受賞作。
富士日記〈上〉 (中公文庫) 富士日記〈中〉 (中公文庫) 富士日記〈下〉 (中公文庫)

朝は何を食べて、どこそこで何を何円で買い、誰と会い・・・日々の暮らしを書き留めた本当にごく普通の日記です。
紹介文に「天性の芸術者」とありますが、何時間見ても飽きない絵や彫刻のような文章。
理由のない(わからない)美しさがあります。

七月十九日(日)
朝、十時ごろまで風雨。
ひる ホットケーキ。
午後、河口湖まで買出し。馬肉(ポコ用)、豚肉、トマト、ナス。
河口湖の通りは大へんな人出と車の排気ガスで、東京と同じにおいがしている。湖上はボートと遊覧船とモーターボート。湖畔は、紙クズと食べ残しのゴミの山と観光バスと車で、歩くところが少ない。
夜はトンカツ。
くれ方に散歩に出たら、富士山の頂上に帽子のように白い雲がまきついて、ゆっくりまわって動いている。左の方から麓から七合目までぐらい、灯りの列がちらちら、ちらちら続いている。登山の灯だろうか。花子に見せてやろうと家まで降りてきて連れて出ると、もう富士山は全部雲におおわれて、富士山がどこにあるのかも分からない。灯りも見えない。本当に、あっというまに、雲がおりてきたのだ。

日付をたどって今日と同じ日(毎日はありませんが)を読むもよし、同じ季節のところだけ読むもよし。
日記なのでどこからでも読めで、どこでも止めれます。
ロラン・バルトの「恋愛のディスクール・断章」と同様トイレや枕元にピッタリの本。

現在富士山の見えるところで生活しているのも、この本の影響が少なからずあると思います。

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