本:開高健「夏の闇」

開高健「夏の闇」

ヴェトナム戦争で信ずべき自己を見失った主人公は、ただひたすら眠り、貪欲に食い、繰返し性に溺れる嫌悪の日々をおくる・・・が、ある朝、女と別れ、ヴェトナムの戦場に回帰する。
徒労、倦怠、焦躁と殺戮という、暗く抜け道のない現代にあって、精神的混迷にかざす灯を探し求め、絶望の淵にあえぐ現代人の《魂の地獄と救済》を描き、著者自らが第二の処女作とする純文学長編。

夏の闇 (新潮文庫)

ベトナム戦争を舞台にした小説「輝ける闇」の、その後、を描いた作品。

研ぎすまされた澄明な文章。
行間からさまざまな風景や雨音、水の冷たさ、眠気、においが漂ってきます。
あぁー「モツ」が食べたくなってきた。

何度読んでもまた読みたくなる一冊。
この作品のあと、小説が書けなくなった、というのもわかるような気がします。

以下、本文より引用。

はずかしそうに軽く腹を撫でて女は微笑した。
目は輝いているがうつろで、煙のようなものがたちこめ、汗にまみれて男の腕のなかからのがれていくときにそっくりのまなざしであった。
飽満が仮死ならば美食が好色とおなじ顔になっても不思議ではなかった。
ぶどう酒の酔いは豊沃な陽に輝く、草いきれのたちこめた、なだらかな丘なので、頂上をすぎたあとも豊沃は緩慢につづいていき、いよいよそれは性に似てくる。

入ってきて、人生と叫び、出ていって、死と叫ぶ。

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