本:三島由紀夫「音楽」

三島由紀夫「音楽」

少女期の兄との近親相姦により、美しい愛のオルガスムスを味わった麗子は、兄の肉体への憧憬を心に育み、許婚者をも、恋人をも愛することができない。
麗子の強烈な自我は、彼女の不感症を癒すべく、懇切な治療を続ける精神分析医の汐見医師をさえ気まぐれに翻弄し、治療は困難をきわめる――。
女性の性の複雑な深淵に迫り、人間心理を鋭く衝いた、悪魔的魅力をたたえた異色作。

音楽 (新潮文庫 (み-3-17))

三島由紀夫を読むならまずこれから、と薦められて読んだ初の三島作品です。
解説は澁澤龍彦

主人公の美女、麗子の心を解きほぐしていくという、ミステリーのような、サスペンスのような。
精神分析医汐見和順の手記、というかたちで書かれているのでとても読みやすいです。

それにしてもどうしてこんなに女性心理の深奥が描けるのでしょうか!
作品を読むより先に動画(YouTube:あの人に会いたい - 三島由紀夫)を見ていたので、ちょっとした衝撃でした。

以下、本文より引用。

そのとき、久々に彼女の頬に、一瞬ちらとチックが走った。
この小さな稲妻のような痙攣は、私には見えない奇怪な小鳥のように思われる。
この小鳥が彼女につきまとって離れず、やっとしばらくどこかへ飛去っていたのに、又元の巣に姿をあらわし、翼の一閃と共に、再び彼女の病んだ心に、その温かい暗いねぐらにもぐり込んだのである。

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